人を育てるということ
私が教師時代に得た教訓を少し振り返って残しておこうと思います。
少しだけ自己紹介を。私は大学卒業後、高校教師として社会人のキャリアをスタートさせました。現在はWEBシステムを中心とした開発者(いわゆるSEというやつ)をやっていますので、高校教師としての道を歩むことは8年で辞めてしまったのですが、民間企業に籍を移した今でも、人を育てるという事に関しては、教師時代の経験は大いに生きています。
人を育てるという場面において、独りよがりに無理矢理に相手をコントロールしようとしても結果的には相手の成長に繋がっていないことが多く、どちらかというと、所謂「指示待ち人間」の出来上がりというケースになってしまっているのを何度も見てきました。そうならないためにも、どのようにして人に伝え、出来るようになってもらうのか、どのように成長してもらうのかについて、まとめておこうと思います。
人が育つとき
主観にはなりますが、一番大事な部分は、相手に敬意と興味を持つ事かなと思います。例えば同僚や部下に対するときを想定してみようと思います。
仕事をやってもらう時に部下や同僚に敬意を持ってお願いしてますでしょうか? 部下や同僚に仕事をお願いするということは、その仕事は自分がやらないことです。もちろん一緒に同じ業務を分担しながらすることはあるとは思いますが、同僚や部下がやったものを破棄して同じことを2度するわけではないと思いますので、自分がやらない事になります。自分がやらないことをお願いするのですから、お願いする側の役職や立場というものがあれど、敬意を持ってお願いすることを抜きにすると、もちろんですが気分良く作業してくれる確率は低くなります。「No!やって当たり前! Yes!!やってくれてありがとう!!」という感覚は大切かもしれませんね。
次に、相手に興味を持っていますでしょうか? 相手がどのような人なのかという事に興味を持ち、知ろうとすることも大切かと思います。大抵の場合、敬意を持ってお願いされるだけで気分良くやってくれる人が多いとは思うのですが、全く興味のないことや、やりたくないことを、どれだけ敬意を持ってお願いされたところで「やりたくないものは、やりたくない」となってしまうのが本音の部分かと思います。きちんとやってくれたら御の字で、クオリティを下げてやるか、やらなくて良いことならやらないかになってしまうのではないでしょうか。興味を持つとは、どういった事に関心があって、どういう事をやりたいと思い、やりがいを感じるのかという部分を面談や雑談を通じてヒアリングするという感じでしょうか。その上で言葉の掛け方を変えていくと多くの方は気持ちよく仕事してくれると思います。
私自身、上記のようなことを完璧に出来る、出来ている訳ではありませんが、しっかりと準備できた時はうまくいくことの方が多いと思います。
「成長してもらいたい。」「出来るようになってもらいたい。」と思っているのであれば、その人がどのような人物なのか興味を持った上で、敬意を持ってお願いするということで成長のスタートラインに立てるのではないかと思います。何の事を言っているのか… シンプルに面白くないことを我慢してやってる時は成長が極めて遅い、もしくは全くないのではないかとすら思っているということです。ただ、あくまでもこれは前提であって、整ったからと言っても100%うまくというわけではないですからね。
率先垂範
続いて、成長の過程についてです。所謂教え方という部分になるかと思います。
私もよく引用するのですが、山本五十六さん語録の一つ「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」です。この手法については大いに有効だと思いますし、私も心がけていることではあります。初めてやる作業に関しては、だた「やれ」というのではなく、実際にやって見せてあげたり、やらないまでもある程度具体性を持って指示をしてあげると行動することのハードルが下がると思います。それから実際にやって貰った時には適切にレビューを返してあげる必要はあるかと思います。個人的な感覚では1つのダメ出しにつき、2つもしくは3つのGoodポイントを伝えるように(無理矢理でも良い)すると良いと思います。普段人をほめる習慣にない人は中々2つもしくは3つのGoodポイントを見つけるのが難しく感じるかと思いますが、そこは努力でカバーできる範囲かと思います。
ただ、このままやったとしても、もちろんですが、全くやってくれないという事は往々にして起こります。何が足りないんだろうか?
これは先ほどの「人が育つとき」でも触れたのですが、指揮命令してる人が部下や同僚に敬意と興味を持っていないという前提が崩れている時によく起こっているように感じます。また、仕事をお願いしたら投げっぱなしで途中経過の観察無し、終わった時のレビュー無しという場合はとても多いように感じます。毎日会うたびに聞かれると嫌ですが、ある程度のタイミングでシンプルに「どんな感じ?」って聞くだけでも全然違うと思いますし、終わった時に関しては「やってみてどうだった?」と聞くだけでも救われるような気がすると思います。ここでも興味を持つことが大事だということかと思いますね。
少し気をつけないといけない事(私の失敗談)を共有しておきます。それは大学時代、教育実習に行った時のことです。私自身、塾でアルバイトをしていたこともあり、自分の授業にはある程度の自信を持っていました。同期の3人と1つの学年の各クラスをそれぞれ持ち、同じ内容を教えるという状況だったんですが、そこで私は失敗を通じて教員時代に通じる大きな経験をしました。それは何かというと物凄く丁寧でわかりやすい授業をしすぎた
(実習の先生にも1番上手いと言っていただいたし、授業アンケートでも極めて評価が良かった)ことによって中間試験の成績が学年で一番悪かった(前期の成績は学年トップだったそうです… )という結果になったことです。(点数には大きな差はなかったのですが…)正直ショックでした。
なんの事を言っているのか分からない、なぜそうなるのかが分からない方もいらっしゃると思いますのでご自身に当てはめて想像してもらいたいのですが、物凄く分かりやすく「完璧に理解できた!」と思える授業を受けた後、その授業内容の勉強を改めて自分でしようと思いますか? おそらくほとんどの方は「しない」を選択すると思います。なぜなら完璧に理解できたと感じているから。もちろん真面目な方は復習すると思いますし、今回の実習先の生徒でも、中間試験のために勉強したとは思います。でも、推測ではありますが、やらない子を生み出していたんではないか思います。これは教員になってからも続きます。
再度実感する機会がありました。定期考査の成績に差はあまりないのに、全国模試の成績が他のクラスより低いケースが発生しました。駆け出しの教師の頃は何が何だか分からず、結局解決に至りませんでした。今は振り返ってみてああすればとかこうすればとか思い付くこともありますが、ようは「指示待ち人間を生み出していた」ということに尽きるかと思います。それが分かったのは教師3年目の校内での有志の勉強会でのことでした。ベテランの先生(私が高校時代に教わった先生)が「自身の教員人生を振り返る」というテーマで講義をしてくれた時のことです。それは楽しく、美しく人生を振り返ってくれたのですが、その一節が私の脳天を撃ち抜きました。
”手ぇかけ過ぎたらアホになる”
初めは呆気にとられてその後何を話されていたか記憶にないぐらいなのですが、約4年間の教育活動が走馬灯のように(かなり脚色が入っています)駆け巡りました。「これか!」と自分の中での納得感と期待感が降りてきたのを覚えています。それから私の教育活動の方針が変わりました。ワザと下手な授業をする訳ではなく、全てを話してしまうのではなく、自分で考えざるをえない状況を作りだす授業に切り替えていきました。結果的には模試の成績も安定してきました(本当はぶっちぎりたかったですが…)し生徒の表情もより真剣になったように感じています。
万能薬ではないというタイトルについて
先ほどの「率先垂範」についてですが、有名な節は先ほど紹介したのですが、実は続きがあるんですよね。引用しますね。
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。
1行目の文章のみが一人歩きして共有されることが多いですが、実は2行目、3行目があってこそなのかなと思います。2行目はまさにその人への「興味」だと思いますし、3行目は「敬意」ですよね。その前提が揃ってこそ、成長のステージで色んなことにチャレンジできるのかなと思っています。
タイトルの万能薬ではない、という文言については上司や同僚が「率先垂範」(いわゆる1行目)をしたところで、同僚や部下への敬意や興味がなければ効果が薄くなるどころか、全く効き目がないということになり兼ねません。あなたが超絶優秀な人であるならば、背中で語るのではなく、たまには振り返って、あなたを支えていくれている部下や同僚に「いつもありがとう」を言うことと「最近どんなことに興味あるの?」と聞いてあげてもいいのかもしれません。
以上長々と書き連ねてしまいましたが、少しでも多くの方が成長できるステージを整える方法を知るきっかけになっていただけると幸いです。
たまにではありますが、こう言った教育に関する事を発信して行こうと思います。それではまた〜